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小説『庭と盆栽100鉢を任されたら、鉢の声が聞こえるようになりました』#1【常滑焼・萬古焼編】

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「……詰んだ」

私は実家の庭を前にそう呟いた。

広い。
広すぎる。

いや、もうそんなレベルじゃない。


裏庭
家庭菜園3面
謎の小屋

ヤバいオプションが多すぎる。

そして極めつけは、おまけでついてきた父の盆栽100鉢――

「庭の水やり、頼んでもいいかな?」

この何気ないひとことにうなずいてしまったことが、私の運命を変えることになるとは。

ちなみに私は園芸初心者である。

サボテンを二度枯らした実績を持つツワモノだ。

そんな私が今、
草が生い茂る広すぎる庭で、
盆栽100鉢と向かい合っている――

終わった…

(まだやりたいこと、たくさんあったのに…)

「……とりあえず、全部に水かけるか」

ジョウロを持ち上げた瞬間だった。

「待て、小娘」

どこからか声が聞こえ、私はジョウロを落としかけた。

「は!?誰?」

「その水のかけ方、雑すぎる」

「えっ?」

とっさに声のした方を振り返る。

棚の中央。

渋い茶色の盆栽鉢。

貫禄がある。

なんかもう、置いてあるだけで強い。

その鉢が――
しゃべった?

「……」

私は沈黙した。

現実逃避のために空を見てみる。

青空だった。

そうか、突然の環境の変化にメンタルがついていけず、マボロシを聞いただけかもしれない。

(疲れてるみたい…
今日はもう寝よう)

水やりもそこそこに家に入ろうとすると、

「コラコラ、逃げるな、小娘」

その鉢がまたしゃべった。

(やっぱりお前かァーー!!)

今度はバッチリ目の前で見てしまった。

間違いなく、この茶色の鉢がしゃべっている。

「オヌシ、そんな勢いで水をかけたら、土がえぐれてしまうだろう」

(なっ!?)

私は全力で後ずさった。

そして勢い余ってホースを踏み、自分に水を浴びた。

最悪だ――


「……ちなみに、あなたは誰ですか?」

私は恐る恐る尋ねた。

「――常滑焼だ。
六古窯の一角。そこらの鉢と一緒にするな」

短い。
だが重い。

(六古窯って何?
でも絶対すごいやつだ、これ)

名乗っただけなのに、“圧”がすごい。

まるで戦国武将並みの威圧感である。

すると、隣の丸っこい鉢もニコニコしながら話し始めた。

「ほんでワシが萬古焼ねぇ。よろしゅうな~」

(か、関西弁…)

思わずほっこりしてしまう、のんびりとした声だ。

なんだろう、この鉢は安心感がすごい。

「いやぁ、最近は安くて丈夫で使いやすいって人気でねぇ。ホームセンターから専門店まで幅広く働かせてもろてますわ」

「節操がないとも言うが」

そこにすかさず入る常滑焼のツッコミ。

「褒めてへんやん、それぇ」

夫婦漫才が始まった。

しかも息ぴったりだ。

(だめだ…情報量が多すぎる…)

脳が処理を拒否している。

だが、もう覚悟を決めるしかあるまい。

(ココでは鉢がしゃべるんだ)

私はすべてを受け入れた――


「嬢さんなぁ、そんなに驚かんでもええんやで」

萬古焼はひとりでしゃべり続けている。

(よくしゃべる鉢だなあ…)

「常滑さんもなぁ、怖そうに見えるけど実は面倒見ええんよ」

「余計なことを言うな」

「この前も若い鉢が棚から落ちそうになった時、真っ先に――」

「――萬古!」

「はい黙ります…」

強い。

一瞬で止まった。

だが私は見逃さなかった。

常滑サン、ちょっと照れている。

絶対いい人だこの鉢。
いや、人じゃないけど。

「ところで小娘」

常滑焼が低い声で言った。

「それより、まずは水やりだ」

「はい」

「いいか。優しく、静かに、土を崩さぬようにだ」

「……こう?」

私は恐る恐る、さっきより丁寧に水を注いだ。

静かに。
ゆっくり。

土を崩さないように。

すると――

「……悪くない」

「えっ!?」

常滑焼がほんの少しだけ、満足そうな気配を見せた。

褒められた。

めちゃくちゃ嬉しい。

なんだこれ。
部活か?

萬古焼も嬉しそうに笑う。

「ええやん、ええやん~。なかなか筋がええんと違うの」

「……なんか」

私は小さく笑った。

「ちょっと楽しいかも」


その後も常滑焼と萬古焼に見守られながら(監視されながら)水やりを続けていると、なにやら奥の棚から声が聞こえてきた。

「オラオラ益子!“Amazonおすすめ”のバッジ、俺が取ってやったぜー!見てみろよ!」

「信楽くん、そんな大きい声出さないで。私みたいに雰囲気とセンスがあれば、お客さん勝手に買ってくれるよ」

(な、なんだ…?
他にもしゃべる鉢が!?)

私は思わず頭を抱えた。

「お二人とも、売れすぎて在庫切れてますよー!結局今一番出荷されてんの、私っしょー!」

「あら、言うわね。プラちゃん」

「量産型JKが!」

(しかもクセ、めっちゃ強そう…)

もう意味が分からない。

でも――

たぶん私は、この変な庭で、少しずつ生き延びていくのだと思う。

たぶん…

(できれば優しくしてください…)

【第2話へ続く】

本日の登場鉢紹介

こんばんは。

帰宅しました。

広すぎる庭と盆栽100鉢を押し付けられた初心者です。

……いやほんと、
今日だけで寿命ちょっと縮んだ気がする。

でも、実際に水やりをしてみて思いました。

盆栽鉢って、ただの“植木鉢”じゃないんですね。

見た目だけじゃなく、
性格というか、
役割というか、
それぞれに個性がある。

今日は、庭で出会った「常滑焼」「萬古焼」について、簡単にまとめてみます。

常滑焼(とこなめやき)

「そこらの量産鉢と一緒にするな」

――とは本人談。

最初は怖かったです。

圧がすごい。

でも、実際に調べてみると、盆栽界で超定番の超実力派でした。

愛知県常滑市で作られる伝統的な焼き物で、日本六古窯のひとつ。

急須の神としてお茶の間を支配していますが、盆栽鉢としても非常に人気が高く、

  • 造形が美しい
  • 焼き締まりが良い
  • 高級感がある
  • 長く使える

など、“王道”と言われる理由がちゃんとあります。

特に松柏盆栽との相性は抜群。

渋い。
強い。
カッコいい。

完全に職人系アニキ。

価格はやや高めですが、「ちゃんとした鉢を長く使いたい」という人にはかなり魅力的です。

日本六古窯とは?

日本六古窯とは、日本を代表する6つの古陶磁器産地(瀬戸・常滑・越前・信楽・丹波・備前)の総称です。

まさに日本焼き物界が誇る、現役最古の最強アベンジャーズ!

平安時代から令和の今に至るまで、戦争もトレンド移り変わりも全て耐え抜き、一度も生産を辞めなかったガチの泥臭レジェンドたちです。

ちなみに、京都の清水焼や佐賀の有田焼は「後からポッと出てきて、華麗にバズったスーパーエリート」なので、この歴史泥臭い「六古窯」には含まれません。

土の匂いと炎のパッションを感じたいなら、間違いなくこの6つが頂点です。

たっち

王道で超人気の憧れの常滑焼。
初心者でも手の届く物もありますよ!

萬古焼または万古焼(ばんこやき)

「ええやん、ええやん。よろしゅうな~」

安心・安定の万能型精神安定剤。

三重県四日市市を代表する焼き物で、こちらも盆栽界では超有名。

常滑焼が“戦国武将”なら、萬古焼は“頼れる商店街のおっちゃん”です。

特徴としては、

  • 種類が豊富
  • サイズ展開が広い
  • 比較的手頃
  • 丈夫
  • 普段使いしやすい

という、圧倒的な万能感。

初心者でも扱いやすく、価格も比較的手を出しやすいので、「最初の一鉢」としてもかなり人気があります。

あと、丸みのあるデザインが多くて、なんか安心感がある。

分かる人いるかなコレ。

“ちゃんと盆栽感あるのに親しみやすい”って感じです。

たっち

人気の萬古焼がこちら!
丈夫で扱いやすいので、初心者にもおすすめです。

まとめ|初心者的感想

正直、盆栽鉢なんて全部似たようなものだと思ってました。

すみませんでした…

実際に見比べると、全然違います。

雰囲気も、
存在感も、
樹との合わせ方も、
全部違う。

しかも調べれば調べるほど、盆栽の世界、沼が深い。

怖い…

そのうち私は、鉢だけで30分語る人間になってしまうのかもしれません。

未来の自分が怖いです。

というわけで、今回は「常滑焼」と「萬古焼」の紹介でした。

次回は、庭の奥で騒いでいた“クセの強い鉢たち”について触れる予定です。

……たぶん。

できれば静かにしててほしい。

それでは、第2話もお楽しみに!

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